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労働時間の規制強化 理想と現実の差
 過労への厳罰化など、労働時間に対する規制が強化されている。もともと労働時間が長いとされてきたトラック業界にとって、全産業と足並みを揃えるという視点からいうと、自然の流れといえる。  

 しかし、競争激化で運賃が下落する一方、燃料コスト上昇などの中にあって、適正な労働時間の徹底は至難の業だ。事業者からは、理想と現実のギャップに揺れる苦悩の声が聞こえてくる。

 「何とかしようにもどうにもできない」と話す千葉県の事業者。「今のやり方で労働時間だけを変えれば、間違いなく会社はつぶれる」と断言する。  

 「例えば、渋滞や荷待ちが生じてしまえば、『規定の時間がきたから仕事をしなくていい』とドライバーに言えるわけはない」とする。延長した時間の残業代を支払えば問題はないが、「残業代を支払えるような運賃なんか初めからもらっていない」のが実情だ。  

 その上で、「行政の監査を受けると改善しなければならないが、監査がなければ、そのままにしておける」「規制を強化するのは構わないが、労働時間問題に関しては、全事業所をしっかりと回って確かめないと不公平だ」と指摘する。実際、労働時間をしっかり守ることは大手以外には難しいといえる。  

 また、表面上は労働時間を守っている千葉県内のある事業者では、「ドライバーとのコミュニケーションで何とかごまかしている」という。雑貨配送でスポット輸送も手掛ける同社では、ドライバーの労働時間を守るのは現状では不可能に近い。「まじめに残業代を支払えば会社は持たない」と、ドライバーに現状を理解してもらっている。そのため、「ドライバーの誰かが労基署に駆け込めば、うちは確実に行政処分を受ける」とリスクと隣り合わせの現状を吐露する。  

 一方、埼玉県のある事業者は、タコグラフを入れ替え、見た目には労働時間の超過がないように細工している。「監査や行政指導が入ったとき、違法ではないと示さなければならない」とする同社社長は、「後ろめたい気持ちはあるが背に腹は変えられない」と苦しい胸の内を明かす。  

 「誰も法を犯したくて犯している者などいない」というのが事業者の声だ。会社と従業員の生活を守るためにごまかさざるを得ないのだろう。問題解決にはやはり、適正運賃の収受しかない。残業代を支払えるような運賃ならば誰も困らない。行政が本当に規制強化を進めるならば、指導監督の徹底も並行して行わなければいけない。「見つからなければ大丈夫」というのでは、公平な市場は作れない。  

 「労働時間を厳しくするなら、すべての事業者を回って指導を徹底すべき。運悪く見つかったところだけが排除されるような、運で左右される市場はおかしい」とし、「行政が徹底した指導を行えば、今の運賃では割に合わないことが理解できる。そうしてはじめて運賃が上がるのではないか」という事業者の叫びは、どこまで届くのだろうか。

(10/05/21)

<記事提供:物流ウィークリー


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